お父さんが悩んだ末に出した方法は、娘の心に深く残った。
「たまには、お父さんと飲みに行こう」明け方まで娘を連れ回した父親の真意。
ある日父から、「麗子たまには、お父さんと飲みに行こう。何でも好きな物食べて何処でも連れて行ってやる。チョットおしゃれしてこい」と言われた。
面倒のような気もしたが、その頃、夜の街に興味も有り出掛けた。町に出る車中で父が言った。「今日はトコトン飲むぞ!!もうダメって程飲め。お父さんが責任持つからな。アホみたいに飲もうぜ」
おいおい、いいのかよ・・・お母さんに怒られるぞ~。などと思ったが、お父さんが責任持つんだからいいか・・・
1軒目、父行きつけの串焼き屋に到着。女将の「みっちゃん(父)が彼女連れて来ちゃったかと思ったよ~」の1言で気を良くした父は2軒目から彼女だって事にしろよ!と完全に舞い上がった様子。二人でかなり飲み店を後にする。
2軒目、父の行きつけのクラブに到着。父のご指名の女の人に「娘さんでしょ?」とアッサリ見破られるも、これまた上機嫌。「俺に似てるんだよなぁ・・目が似てるからなぁ・・」要らぬ説明をし、嬉しそうに飲み続ける。
3軒目、父の行きつけの寿司屋に到着。大将に「いいなぁ娘と一緒に飲みに行くなんて幸せだねぇ。親父の夢だよなぁ」等言われ、またもやご満悦。「好きなもん喰えよ。たまにしか一緒に来ないんだから」と父。初めてじゃん・・・小さな見栄。。張ったな。。。
4軒目、父行きつけの居酒屋。この辺はもう覚えていない・・何を飲んだかも・・話の内容も・・。
5軒目、父行きつけのスナック。まったく覚えが無い。カウンターにつっぷしダウン。
父はタクシーを呼び私を背負ってくれた 。この時一時的に意識を取り戻し、「気持ちいいなぁ・・お父さんゴメンね。酔っ払っちゃった」「いいよ。寝てろ」
朝、目覚めると部屋のベットに寝かされていた。父と顔を合わせるのが気まずい・・・
リビングに行くと父はもう出掛けていた。母に広告の裏に書いた手紙を渡された。
「麗子へ。昨日は楽しかったな。また、行きたいよ。また一緒に行こうな。
昨日、麗子が飲んでグロッキーした酒の量はわかるか?ビール2杯、チュウハイ5杯、・・・・。。。。。それが、お前の量だぞ。今度、誰かと飲みに行っても、その量の手前で帰ってこい。
世の中はいい奴ばかりじゃない。 騙してどっかに連れて行かれたら、お父さんは守ってやれないから。だから、お前の量を教えようと思ったんだ。必ず守ってくれよ。お父さん信じてるけどな・・・
お父さんより」
涙が出るのを必死で堪え朝食を食べた。
母が、お父さんはずっと心配していた・・でもどういう風に伝えたらいいか?悩んでた・・縛ってもいけない。あの子は、そういう子だから。縛ったら帰らなくなる子だから・・・
今思えば、あの頃本当に心配だったと思う。好き勝手な事をして遊んでいたから・・・
ありがとう。お父さん。お陰で誰かに騙される事無く遊べました。 お酒で失敗は、あまりしませんでした。 つまらない事で傷つく事も無く青春を謳歌いたしました。感謝しています。
女の子を持つ父親はきっと自分が男だけに心配なんだろう。
父も昔のようにカッコ良くはなくなった。もう、お爺ちゃんだ。あの頃のように夜の町を歩く父は、もういない。趣味の畑で野菜を作り私や孫に食べさせるのを楽しみにしている。
今の私があるのは父のお陰だ。いくら感謝しても、足りないな・・・